『月刊リヴラン佐原』1993年3月号、4月号掲載の記事に加筆訂正いたしました。
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1月20日、泌尿器科担当のドクターに診察していただき、大分肥大していると云われ、1月25日に入院し、手術を受けることに決まりました。前立腺肥大の治療については、1.投薬による 2.TURIP(腹を切らずに患部を電動工具で掻き出し取除く)3.従来の腹を切り患部を取除くの三方法がある。 私の場合は、2.の方法で、1月28日午后手術と決まる。入院当日前までに次の検査を済ませておくように云われる。1.心電図 2.呼吸器能検査 3.患部のレントゲン 4.血液検査 1月25日、入院手続きを済ませ入院患者となる。 1月26日、27日と諸々の検査、超音波、レントゲン、注射の試射、点滴、検温血圧測定、家族状況、宗教の有無、の調べがあり、愈々、1月28日午后1時、TURIP手術を行うと云い渡される。 当日は、朝昼夕とも食事、水は一切とってはいけない。 5分前にすべての準備終り、担当の看護婦2名が患者を手術台に運び、点滴セット、洗滌液(ビニール袋)を上から吊り下げ、右腕に血圧測定器、心電図を測るため胸に3ヶ所テープで貼ってセットする。 衣服は全部脱ぎ本当のスッポンポンである。エビみたいに背中を丸め両膝をかかえ顔を内に曲げて、脊ずいの下辺腰部にズブーッと局部麻酔の注射の針が入った。髄分と痛い! 忽ちにしびれ腰部の感覚がなくなったみたい。先生がシビレ具合を尋ねる。アルコール布で胸腹をさわり感じ方を聞く。 昨日から化膿止めの筋肉注射を肩辺に2回程うってある(この注射は非常に痛い、手術前と手術後を含め計5本位になる)。手術室に入り、いろいろ準備をし麻酔が利いて手術が始まるまで約30分位かかる。ドクターと看護婦2人の計3人でヨイショッと手術台の上の正しい位置に両腕をしばり固定し、「では始めます」とドクターが宣言したのがハッキリ聞こえた。手術台の上に素裸で両腕をしばられ、人生六十五年にして哀れ、マナイタの鯉になった。この姿は運命とはいい乍ら一世一代の手術に、一切を任せ観念して目をつぶり時間の経つのを待った。 局部麻酔が利いているが、意識はハッキリしていて何でも判る気がする。 手術の前日、先生から説明があった。TURIPの手術方式は、大体危険性は少いのですが電動器具を操作して行うので、誤って周りの壁を傷つけてしまう心配がある。その場合は壁の穴を塞ぐ手術が必要である。又前立腺の下辺にあるオシッコの弁(括約筋)を損傷してしまった時等のトラブルの場合は、腹を切って再手術することになるので、万が一の時は承知していて下さいと云われた。 手術室の照明が映画でやるように電気が減量し、徐々に暗くなり今迄の半分位の明るさになり、とまった。この手術は他の手術とちがいカメラの画面を見ながら電気器具を操作し、患部のカスみたいなものを掻き出す方法なので、余り明るいと工合が悪いらしい。 一番始めにオチンチンの尿道にグッーと管(鉛筆の太さ位のゴム管)が差し込まれた。 少し痛いッと感じた。 しばらくは電動のビービーという音がかすかに聞こえ、時々に掻き出したものを洗い流している様子、排水用の管を横にプルプルと動かすらしい時オチンチンがズキンと少し痛い感じがする。右腕にセットされている血圧計が定間隔で自動的にギュー、ギュウとしまり測られるのが手術の痛みの感じを、少しマギレさせてくれるようで助かる。 十五分間隔位に看護婦が経過時間と血圧の数値を先生に知らせる。上から吊られている洗浄用の水袋(1000cc)がドンドン取りかえられ追加されるのが見える。点滴のビニール袋を何回か替えられた。看護婦さんが知らせる血圧の数値も始めは130〜90位、120〜、110〜、とドンドン血圧が下がるのがわかる。96〜に幾つと聞こえた。 マジックで印した洗浄の水袋の10番が吊られた頃、看護婦さんが約一時間です。血圧は106〜と少し上ったように知らされた。もうそろそろ予定の一時間になるので終ってくれるのかなあーと思った。 随分と長い一時間に思えた。先生が、 「高橋さん、もう少しで終りですからネ」と云われた時、地獄に佛、実際の所本当に嬉しかった。 2〜3分してから先生が、時間も丁度予定通りに終り周りの壁も損傷しないで、手術はうまくいきました。 この言葉を聞いたとき、生れて始めて入院し、手術台に乗り、90%大丈夫と信じ乍らも、万が一の場合トラブルが起き、六十五歳の人生もこれでオサラバになてしまうのかと心配したことは、正直の所ありました。手術成功のこの心境は、水泳オリンピックの選手、岩崎恭子さんが、「今迄生きていた中で一番嬉しかったことです」と云った言葉と、同じ心境でした。弓道の中央審査で100人中4名の合格率の難関を突破して合格した錬士と六段の昇格昇段も、一生涯に残るしあわせの一ときでしたが、本日のTURIP手術の成功もそれ以上の嬉しいことだと云っても過言ではありません。
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